ロボマインド・プロジェクト、第84弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回のテーマは物語です。
第79回「好きなことだけして生きて行く」でも、熱く語ってしまいましたけど、僕が最終的にやろうとしてるのは物語の自動生成なんです。
だからねぇ、物語の話となると、ちょっとテンションが上がるんですよね。
今回、久しぶりに物語について、真剣に考えてみたんですけど、やっぱり、物語は奥が深いです。
物語を持てるのは、人間だけなんですよ。
正確に言えば、ホモ・サピエンスです。
前回は、ベストセラーとなった「サピエンス全史」を取り上げました。
著者は、イスラエルの天才、ユヴァル・ノア・ハラリです。
ハラリはいいます。
ホモ・サピエンス最大の革命は7万年前に起こったと。
それは「認知革命」
そして、その「認知革命」を可能にしたのが、ホモ・サピエンスが獲得した特殊な能力。
物語です。
物語を理解する力です。
物語を生み出す力です。
物語。
ほんと、これ、強力なんですよ。
強力なのに、当たり前すぎて、そのことに気づかないんですよ。
でも、物語を理解できるのって、人間だけが持つ、特殊な能力です。
これを、忘れたらダメなんですよ。
ところがですよ。
このこと、天才ハラリですら、つい、うっかり、忘れてたんですよ。
「サピエンス全史」で紹介されてたサバンナモンキーの話です。
サバンナモンキーは、簡単な言葉を使えます。
たとえば、「ライオンが来たぞ!」って鳴き声を上げると、それを聞いたサルは驚いて木に登ります。
あるとき、ライオンがいないのに「ライオンが来たぞ!」と叫ぶサルがいたそうです。
バナナを食べようとしてたサルは、それを聞いて、バナナを投げ出して木に登ったそうです。
その後、「ライオンが来たぞ!」と叫んだサルが、落ちてるバナナをもっていったそうです。
このことから、サルは、言葉をもつだけじゃなくて、嘘もつくこともできるといえます。
嘘をつくだけなら、サルでもできるって、ハラリは言います。
なるほどって、僕も、最初納得しました。
でも、よく考えてください。
これ、本当に、サルは嘘をついてるんでしょうか?
相手をだましてるんでしょうか?
もっと分かりやすい例をあげます。
たとえば、サルがヤシの実を食べるとします。
偶然、ヤシの木を揺すると、ヤシの実が落ちてきたとします。
サルは気づくわけです。
ヤシの実を揺すると、ヤシの実を手に入れることができるぞって。
ここまでは、問題ないですよね。
じゃぁ、次は、バナナの話です。
これも、おんなじだと考えてみましょう。
ある日、偶然、「ライオンが来たぞ!」って叫んだとします。
すると、バナナを食べようとしてたサルが驚いて、バナナを置いて気に登ったとします。
それを見て、「ライオンが来たぞ!」って叫んだサルは、バナナを手に入れることができました。
そして、ここから学習したわけです。
ライオンがいなくても、「ライオンが来たぞ!」って叫ぶと、バナナが手に入るって。
つまり、サルはヤシの木を揺らすのと同じ感覚で「ライオンが来たぞ!」って叫んでるんですよ。
もしそうだとしたら、これって、嘘とか騙すとかとは、ちょっと違いますよね。
別のパターンで考えてみます。
ヤシの実は、熟してくると、風で揺れて落ちるとします。
それを、風でなくて、手で木を揺らせてヤシの実を落としたとします。
それを見て、ヤシの木を騙してるとか、ヤシの木に嘘をついてるって、だれも言わないですよね。
でも、ライオンがいないのに、「ライオンが来たぞ!」っていうのは嘘をついてるっていいますよね。
この違いはなんなんでしょう?
それは、相手が木かサルかの違いです。
頭で考えることができる同じ仲間の場合、嘘をついてるってなるわけです。
さぁ、こっからです。
問題は、このサルは、嘘をつこうと思ってるかってっことです。
このサルは、嘘とか、だますとかって概念をもってるかってことなんです。
どうでしょう。
嘘は、相手がいる場合っていいましたよね。
こういえば、相手はこう行動するだろうってわかって、嘘をつくわけです。
相手の考えてることを想像する能力を、「心の理論」っていいます。
「心の理論」については、第61回「自閉症は未来の人類か?」で詳しく説明しているので、興味がある方はそちらもご覧ください。
そこでも説明してるんですけど、相手がどう考えてるか理解できるのは、人間だと4~5歳ぐらいで、動物には、この能力はないようです。
ということは、「ライオンが来たぞ!」って叫んだサルも、相手がどう思うか考えて叫んだわけではなさそうです。
つまり、ヤシの木を揺らしたらヤシの実が落ちるって感覚で、「ライオンが来たぞ!」って叫んだんだと思います。
つまり、「嘘をつく」って概念を、サルは持っていないんです。
つまり、「ライオンが来たぞ!」って叫んでバナナを横取りするところを見たからと言って、このサルは嘘をついてるって判断するのは、早計なんです。
じゃぁ、なんで、そう、早とちりしてしまうのかってことです。
僕が一番いいたいのは、ここなんです。
ここが、この研究の一番難しいところなんです。
僕がやろうとしてるのは、コンピュータで心を創ることです。
人が、頭の中で考えてることと、同じものをコンピュータで再現しようとしています。
でも、脳をMRIで観察しても、頭の中で考えてること、つまり主観は絶対に見えてきません。
ここが、科学の限界なんです。
僕が創ろうとしてる心のモデルは、主観が見た世界を、コンピュータプログラムに置き換えようとしてるわけです。
頭の中には、こんな機能があるだろうってものを作ろうとしているわけです。
でも、それは、客観的に証明できないんですよ。
だから、ものすごく注意する必要があるんですよ。
「ライオンが来たぞ!」って言って、バナナを横取りしたのを見て、このサルは嘘ついてる、だましてるって思うのは、「嘘」とか「だます」って概念を、自分が持ってるからです。
でも、人間と同じ行動を取ったからと言って、同じ心を持ってるって断言したらダメなんですよ。
心の理論をもってるのは、人間、ホモ・サピエンスだけなんです。
相手が、こう考えるだろうって思いながら行動するのは人間だけなんです。
このことは、天才ハラリですら、勘違いしてたぐらいですから、よっぽど気を付けないといけません。
では、なぜ、ハラリですら、勘違いしてしまったんでしょう。
ここに、物語りの持つ強力さがあるんです。
嘘ついたり、だましたり。
信頼してる人に裏切られたり、恨んだり。
これって、まさに、物語なんですよ。
物語というより、物語を突き動かす原動力です。
僕らは、あらゆるものから、物語りを読み取ろうとするんですよ。
第74回「脳の中のCPU①」では、ウェイソンの4枚のカード問題を取り上げました。
未成年なのに飲酒してる人を見抜くのと、母音の裏が奇数なのを見抜くのは、数学的には同じ問題なのに、未成年の飲酒を見抜く方がはるかに簡単だって話です。
ズルをしてる人間を見抜く機能が脳の中にあるわけです。
嘘ついてないか、だましてないか、それを最優先で見抜くように脳はできてるわけです。
この機能をもってることで、人間社会がまとまってるわけです。
この機能をもってることで、つい、この人は騙してるんじゃないかって視点で見てしまうわけです。
だから、サルの行動をみて、嘘をついて騙してるって思ってしまうんです。
信頼したり、裏切ったりする機能を獲得して、複雑な人間社会が生まれたわけです。
そして、この機能があるから、物語りを理解したり、生み出したりできるわけです。
そうやって、神話を創造したわけです。
そして、神話によって、社会がまとまって行ったわけです。
これが認知革命なんです。
この辺りの事を、詳しく説明しようと思ったんですけど、時間が無くなってしまいました。
次回こそ、物語と認知革命の関係を説明したいと思います。
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それでは、次回も、お楽しみに!