ロボマインド・プロジェクト、第92弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回は、機械学習で、意識が生まれるところまで説明しました。
でも、まだ、人間の心は生まれていません。
まだ、犬や猿の段階です。
今回は、こっから、一歩進めて人間の心を生み出していきます。
意識が生まれるのに必要なのは、仮想世界でした。
大前提は、意識の仮想世界仮説です。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」を見ておいてください。
仮想世界は、頭の中の3次元空間に作ります。
目で見たとおりに、頭の中の3次元世界に点々を置いて作ります。
実際の位置を確認するために、手で触りながら点々の位置を調整していくわけです。
こうやって、目で見た現実世界そっくりの仮想世界を、頭の中に創り上げるわけです。
たとえば、椅子とか机がある部屋を創り上げるわけです。
頭の中の点々は、一つ一つがいろんなデータを持つ要素です。
持つデータは位置とか色です。
そして、この要素の特徴は、互いにくっつくことができます。
すると、まとまることができるようになります。
現実世界の椅子を手で触って動かすと、椅子全体が動きます。
ここから、椅子はまとまってると感じて、仮想世界の椅子も、要素をくっつけて、椅子のまとまりとして扱います。
椅子とか机を、それぞれ別々に動かせるように仮想世界を創り上げるわけです。
僕らが部屋を見渡したとき、机、椅子って塊で認識しますよね。
この机は、何万個の点々でできてるって思わないですよね。
何万個の点々でなくて、机の塊として認識するってことは、意識は机の塊って認識してるってことです。
さて、コンピュータで扱う単位をオブジェクトと言います。
3DCGで表現される3Dオブジェクトもオブジェクトの一種です。
オブジェクトは、様々な属性を表すプロパティと、動作を表すメソッドを持ってます。
そこで、椅子を表す椅子オブジェクトを創ることとします。
形として、3次元プロパティに3Dオブジェクトを持たせます。
色プロパティや硬さプロパティも持ちます。
さらに、椅子は「座る」メソッドも持ちます。
座るメソッドは、人が椅子に腰かける動作です。
座る人を指定すると、3DCGで座る動作がシミュレーションができます。
こうやって、椅子全体を管理する椅子オブジェクトが作られるわけです。
そして、椅子オブジェクトを指し示す名前プロパティが「椅子」となるわけです。
さて、ここです。
この名前プロパティ。
これ、ちょっと特殊なんですよ。
それ以外のプロパティやメソッドは、どれも、3次元空間で表現できますよね。
位置とか、色とか、座るって動きとか。
どれも、3次元空間で表現できることですよね。
ところが、名前だけは、位置とか色とかで定義するわけじゃありません。
じゃぁ、名前は何のためにあるのかっていうと、他のオブジェクトと区別するためです。
その世界の中で、どのオブジェクトかを指し示すためにあります。
一種の記号です。
記号ということは、3次元の仮想世界の外から、認識したり、操作できるわけです。
じゃぁ、その記号を操作するのは誰?ってなりますよね。
それが、意識です。
意識は、名前を使って、仮想世界にオブジェクトを生成したり、操作したりできるんです。
意識は、仮想世界の外にいますよね。
名前を使って、仮想世界と、意識がいる外の世界が繋がったとも言えます。
よく考えれば、複雑な構造です。
だって、仮想世界は現実世界そのものを真似して作った世界ですし。
仮想世界の外の世界って、現実世界とは違うんでしょうか?
名前を使って繋がった世界って、いったい、どこなんでしょう?
頭がこんがらがってきましたねぇ。
おそらく、それは、現実世界のさらに上の世界だと思います。
メタな世界と言えばいいんでしょうか。
ここに、意識の秘密があるようなんです。
前回、意識がない場合として、カエルの世界を説明しましたよね。(ホワイトボード)
カエルの行動は、現実世界と一体になっているって話です。
カエルは、現実世界にがっつり組み込まれてるから、現実世界の中を自由に動けないわけです。
自由意志を持てないんです。
人間の場合はこっちです。
現実世界と一体となってるのは仮想世界です。
そして、意識は、その外側にいるわけです。
1段、 上のレベルにいるといってもいいです。
だから、意識は仮想世界を観察したり、操作できるわけです。
意識が仮想世界を操作するときに使うのが、オブジェクトの名前というわけです。
言い換えれば記号です。
意識は、記号を操作することができます。
「机をもっと右に動かそかな」って記号を使って考えて、頭の中の仮想世界で机オブジェクトを動かしたりできるわけです。
これが思考です。
意識は、記号を使って考えることができるわけです。
こっから、話がちょっと飛びます。
AIの歴史は60年以上になります。
その間、1960年代の第一次AIブーム、1980年代の第二次AIブーム、そして、2000年代から続いてる今の第三次AIブームがありました。
AIブームというのは、じつは、AIの二つの派閥争いだってこと、知っていましたか。
それは、コネクショニズム派 v.s. 記号主義です。
コネクショニズムというのは、ニューラルネットワークのことです。つまり、機械学習のことです。
写真データとか、現実世界の大量のデータを学習するタイプのAIです。
言ってみれば、現実世界を直接扱うわけです。
記号主義は、「AならばB」といった風に、論理的に考えるタイプのAIです。
赤くて丸い果物は、リンゴですといったのが記号主義になります。
これは、現実世界とは切り離された記号を操作してるわけです。
コネクショニズムも記号主義も、どちらも、第一次AIブームから存在しましたけど、第一次AIブーム、第二次AIブームは、ともに記号主義の時代でした。
それが、2000年代にはいって、ディープラーニングが出てきました。
ディープラーニングは、コネクショニズムです。
第三次AIブームで、ようやくコネクショニズム派が勝利したというわけなんです。
興味がある方は、第28回、第29回の「コネクショニズム派 vs 記号主義」もご覧ください。
AI業界の中では、コネクショニズム派か記号主義、どっちが正しいかって長い間対立してきました。
第三次AIブームで、コネクショニズム派が優勢となってきました。
少なくとも、統合されることはありません。
ここで、さっきの話を思い出してみましょう。
仮想世界は機械学習によって作られましたよね。
つまり、コネクショニズムというわけです。
仮想世界に創られるのはオブジェクトです。
そして、オブジェクトは名前が付けられました。
つまり、記号です。
意識は、名前を使ってオブジェクトを操作しますけど、これって、記号処理です。
どうです。
AI業界で長年対立してきたコネクショニズム派と記号主義。
見事に統合されましたよね。
それでは、コネクショニズムと記号の接点はどこでしょう?
それは、オブジェクトに付けられた名前です。
オブジェクトの名前を介して、コネクショニズムと記号とが結びついたわけです。
もっと行きますよ。
AI最大の難問に、シンボルグラウンディング問題というのがあります。
別名、記号接地問題とも言われます。
言葉って一種の記号ですよね。
AIで言葉を扱うとき、この、シンボルグラウンディング問題が必ず出てくるんですよ。
たとえば「りんご」の意味を定義してみます。
リンゴは赤くて丸いと定義しても、今度は、赤ってどういう意味?、丸いってどういう意味?となりますよね。
言葉を言葉で定義する限り、定義しきれないんですよ。
どこまで説明しても、現実のリンゴに辿りつかないんですよ。
これが、シンボルグラウンディング問題です。
記号主義の最大の課題は、シンボルグラウンディング問題なんです。
それでは、仮想世界を考えてみましょう。
仮想世界というのは、現実世界そのものでしたよね。
仮想世界にリンゴオブジェクトがあるわけです。
それは、現実世界のリンゴそのものです。
そして、リンゴオブジェクトの名前が「りんご」です。
これは記号です。
ほら、記号の「りんご」と現実世界の「りんご」とが、見事に結びつきましたよね。
つまり、シンボルグラウンディング問題が解決したわけなんです。
記号主義の最大の課題である記号接地問題が解決したわけです。
それじゃぁ、どこで解決したんでしょう。
これも同じです。
現実世界のオブジェクトに名前を付けて記号化することで、記号と現実とが結びついたわけです。
どうでしょう。
機械学習で仮想世界を創って、意識が仮想世界を認識するというモデル。
元になっているのは「意識の仮想世界仮説」です。
意識の仮想世界仮説を使えば、長年対立していたコネクショニズム派と記号主義が統合されたわけです。
さらに、AI最大の難問、シンボルグラウンディング問題も解決できたわけです。
意識の仮想世界仮説を使えば、全てがキレイに解決しましたよね。
これを、プログラムで実際に実現しようとしているのが、ロボマインド・プロジェクトです。
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それでは、次回も、お楽しみに!