ロボマインド・プロジェクト、第93弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
言語がどうやって生まれたか。
その仕組みを、ずっと知りたかったんですよ。
Wikipediaを見ると、歴史言語学者のマックス・ミューラーが言語の起源についていくつかの説を提案してるんですけど、これ、あまり参考にならないんですよ。
たとえば、ワンワン説、ドンドン説、エンヤコラ説とかがあるそうなんですよ。
たぶん、犬見て、ワンワンって言ったのが言語の始まりだって言いたいんだと思うんですけどねぇ。
なんか、小学生みたいですよねぇ。
それから、言語学者のノーム・チョムスキーは、10万年前に突然変異がおこって言葉を話せるようになったって説を唱えてます。
こんなん、説明になってるようで、説明になってないですよねぇ。
これで説明になるんやったら、
「ある日、魔法にかけられて、突然しゃべれるようになりました」
でもいいわけですよ。
「魔法」が「突然変異」って科学っぽい言葉になっただけです。
僕が作ろうとしてるのは、言葉を話すAIです。
そのためには、コンピュータで実装できる程度に具体的な仕組みが必要なんです。
犬見て、ワンワン言ったのが始まりってだけじゃ、コンピュータに実装できないんです。
そこで、今回は、ヒトはどうやって話せるようになったのか。
コンピュータで実現できる程度に、段階を追って具体的に説明していきます。
それでは、始めますよ。
大前提は、第21回「意識の仮想世界仮説」で説明した意識の仮想世界仮説です。
簡単に説明すると、目で見た現実世界そっくりの仮想世界を頭の中に創るわけです。
これが機械学習で作れるって話が、前回、第92回「ついに繋がった 精神と物質」です。
そこで、頭の中の3次元空間に創られるのがオブジェクトだって話をしました。
そして、オブジェクトに名前をつけることで記号化して、これが言葉の始まりだって話までしました。
問題はここなんです。
記号化と言っても、そんな簡単な話じゃないんです。
そこで、この過程を、3段階にわけて、丁寧に解説しようと思います。
意識を持つことで、目の前の場面を頭の中に創りだすことができました。
でも、それだけじゃ、言葉を話せるようになりません。
何が必要かというと、自ら場面を生み出す能力です。
自分の頭の中で、自由に場面を作り出せないと、あれこれ考えたりできません。
その能力はいつ生まれたのでしょう?
それは、第87回「言語の誕生」でも説明しましたけど、エピソード記憶を獲得したときです。
エピソード記憶とは、過去の場面を「思い出」として記憶する能力です。
「山でライオンを見た」といった光景を思い出せるのは、見た光景を記憶して、再現できるからです。
ここで重要なのは、自分の意志で思い出せるってことです。
目の前の現在の光景は、無意識が作りだした仮想世界です。
意識が創り出してるわけではないです。
意識は、それを眺めるだけです。
ところが、昨日の出来事を思い出すって行為は、自分の意志で、意識的に思い出してるわけです。
今までも、頭の中に仮想世界を創っていました。
ただ、創ってたのは無意識です。
その機能を意識も使えるようになったといえます。
これを、言語獲得の第一のステップとします。
つぎは、意識が認識する場面の話です。
第87回「言語の誕生」でも取り上げましたけど、ベストセラー『サピエンス全史』には、「ライオンだ」って鳴くサルの話が出てきます。
この話、一見すると、サルも言葉を話すように見えますけど、人間が話す言葉とは、ちょっと違います。
どこが違うかというと、サルの鳴き声は、「ライオン」って単語を含んでるんじゃなくて、ライオンがいるって状況、場面全体を示してるんですよ。
でも、これじゃ、単純な場面しか表現できないですよね。
複雑な状況を示すには、オブジェクトから場面を自由に組み立てる必要があるんです。
つまり、背景からオブジェクトを切り出す能力というか、オブジェクト単位で認識する能力が必要なんです。
これができないと、上手くコミュニケーションがとれないんです。
コミュニケーションが難しいといって思い出すのは自閉症です。
第61回「自閉症は未来の人類か?!」で、自閉症で特殊な能力を持ったサヴァン症候群の話をしました。
たとえば、これを見てください。
写真のように見えますけど、これ、じつは、手描きなんです。
しかも、写真を見て書いたんじゃなくて、記憶だけで描いたんです。
サヴァンの人は、見た光景を、頭の中に写真のように保存することができるそうなんです。
それから、映画レインマンって見ましたか?
自閉症の役をダスティン・ホフマンが演じていて、その弟がトム・クルーズでした。
床に散らばったトランプを、ダスティン・ホフマンが一瞬で全部覚えるシーンがあったんですけど、これも同じですね。
普通、トランプの神経衰弱とかするとき、右端のカードは、ダイヤの7とかって覚えますよね。
これって、カードオブジェクトを作ってるわけです。
場面の中に、オブジェクトをいくつも作って把握してるわけです。
ところが、サヴァンの人は、そんな風に認識するんじゃなくて、全体を写真に撮るように脳内に焼き付けるみたいなんです。
自閉症の人は、場面全体をそのまま認識するわけです。
それに対して、普通の人は、場面をオブジェクトで組み立てて、オブジェクト単位で認識できるわけです。
この違いが、コミュニケーション能力に関係するようです。
そこで重要になってくるのが、場面の中から特定のオブジェクトに注目する機能です。
これは、人間でいうと「指差し」に当たります。
第72回「赤ちゃんが獲得した物④」で、指差しの意味を説明しました。
赤ちゃんは、成長すると、指差しできるようになるって話です。
そして、指差しができないのが自閉症の子だって話もしました。
場面全体を写真を撮るように記憶してたら、指差しができないってわけです。
意識が、オブジェクト単位で認識できること、これが言語獲得の第二のステップと言えます。
そして、赤ちゃんは、指差しができると、どんなことができるようになるでしょう。
たとえば、犬を見つけると、犬を指差して、「わんわん」とか言いますよね。
来ましたね。
ワンワン説です。
言語起源のワンワン説です。
ここまで準備が整って、ようやく言語に到達しました。
重要なのは、言語はコミュニケーションということです。
コミュニケーションというのは、自分だけで完結しません。
必ず、相手が必要です。
そして、もっと重要なのは、その相手も、同じ能力を持っていないといけないということです。
つまり、相手も、オブジェクト単位で認識できる能力があって、自分の意志で、自由にオブジェクトを生成できる能力を持ってる必要があるわけです。
そう言う相手がいたとします。
たとえば、赤ちゃんがベビーカーに乗って、お母さんと散歩していたとしましょう。
向こうから犬を散歩してる人が来たとします。
あかちゃんは、その、犬に注目するわけです。
注目するってことは、頭の中の仮想世界に展開される場面の中から、犬オブジェクトを取り出したわけです。
何か分からないけど、犬を見て、面白いなと思ったわけです。
その面白いオブジェクトを見つけたってことを、お母さんにも知って欲しい。
そこで、犬を指さすわけです。
すると、お母さんは、「あっ、この子は、今、あの犬に興味を持ってる」って思うわけです。
そこで、「あれは、わんわんよ」って教えるわけです。
そしたら、その子は、それを真似して「わんわん」って言います。
すると、お母さんは喜んで「そうよ、わんわんよ」って言います。
子供は、お母さんに褒められて、どうやら、あの生き物は、わんわんと言うらしいと記憶するわけです。
具体的には、頭の中の犬オブジェクトに「わんわん」っていう名前を当てはめるわけです。
この「わんわん」こそが、犬オブジェクトを指し示す記号です。
記号で最も重要なことは、相手とのコミュニケーションで使うってことです。
仮想世界は、自分の頭の中だけの話です。
自分の頭で思ってることを他人に伝えるのがコミュニケーションです。
頭から外に出す手段。
それが記号です。
自分の頭の中にあるのは犬オブジェクトです。
それを他人に知らせるのが記号なわけです。
そして、その記号を受け取った相手は、今度は、その人の頭の中に犬オブジェクトを生成するわけです。
こうやって、お母さんも、犬に注目することができるわけです。
つまり、相手の頭の中にあるものを理解できたわけです。
これが、コミュニケーションです。
相手に、自分の頭の中の物を伝える手段。
それが、記号化です。
これが、言語獲得の第三のステップです。
まとめます。
意識が、自分の意志で、場面を作り出せる機能。
場面の中にある特定のオブジェクトに注目する機能。
そして、オブジェクトに名前を付けて記号化する機能。
この3つの機能を獲得して、言葉を話す基盤が整ったわけです。
これが、正しい言語の起源なんです。
よかったら、だれか、Wikipediaを修正しておいてください。
それでは次回もお楽しみに!