第343回 自閉症と心のシステム


ロボマインド・プロジェクト、第343弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回の元ネタはこの本『自閉症の僕が跳びはねる理由』です。

著者の東田直樹さんは、会話ができない重度の自閉症です。

でも、パソコンとか文字盤ポインティングによってコミュニケーションが取れるんです。

これって、実は、ものすごく珍しいんですよ。
重度の自閉症って、ほとんどコミュニケーションがとれないのが普通です。
東田さんは、幼少期に文字そのものに興味があったらしくて、お母さんがパソコンを渡すと、キーボードで文字の打ち方を覚えたそうです。
そのおかげで、言葉でコミュニケーションが取れるようになったんです。
今まで全くわからなかった、重度の自閉症患者の心の声がリアルにわかるようになったんです。
これは、本当に驚くべきことで、この本、世界中でベストセラーになりました。
イギリスで映画化もされました。

しかも、この本は、東田さんが13歳の時に書いた本だそうです。
後からそのことを知って、僕も驚きました。
しっかりと、自分の言葉で語られてるんですよ。
今までの知的障害のイメージが覆されました。

この本には、自閉症であるとは、どんなふうに感じるのかってことが、克明に語られています。
なぜ、ミニカーやブロックを並べるのが好きなのかとか、なぜ、数字が好きなのかとか。
たぶん、普通は、「へぇ、そうなのか」で終わりだと思います。
でも、ぼくは、コンピュータで心のシステムを作っています。
心のシステムは、僕が、主観で感じた仕組みを、そのまま設計図に落とし込んだものです。
重要なのは、主観で感じたこと、つまり心の中で、どう感じてるかです。
その視点で、この本を読んでみると、ものすごく興味深いんですよ。
僕らの心の仕組みどう違うのか、設計レベルで違いがはっきりと見えてくるんですよ。

これが今回のテーマです。
自閉症と心のシステム
それでは、始めましょう!

僕が提唱する心のモデルは、世界は二重構造になっているというものです。
心の外側は、物理的に存在する物理世界、または現実世界です。
心の内側には、外の世界を仮想的に構築した仮想世界があります。
意識は、この仮想世界を介して外の世界を認識します。
これを、意識の仮想世界仮説と呼んでいます。

内側の仮想世界は、客観的に観測できません。
仮想世界を見れるのは、自分の意識、つまり主観だけです。
だから、自分が何を考えて、何を感じてるのかを他人にわかってもらうには、言葉で表現するしかありません。
言葉でコミュニケーションが取れて、初めて、相手も、自分と同じ心を持ってるって分かります。

重度自閉症患者の場合、言葉でコミュニケーションが取れないので、何も感じてないんだろなぁって、つい、思ってしまいます。
それが、東田さんのおかげで、自閉症の人が、心の中で、何を感じて、何を思ってるのかってことが分かってきたんです。
それでは、自閉症患者の心のモデルを読み解いていきます。

まず、心の仕組みを、生物の進化で整理しておきます。
僕は、意識を三段階の進化で考えています。
第一段階は、カエルレベルの意識です。
カエルは、反射反応だけで行動しています。
お腹が空いていて、ハエをみつけたら捕まえて食べます。
天敵の鳥の影を感じたら、池に逃げます。
外の現実世界に自動で反応するのがカエルの意識です。
自動で反応するって行動は、生まれる前から決まってたわけです。
カエルの行動は、生まれる前から決まっていて、生まれてから、行動を変更することはできません。

さて、哺乳類になると、仮想世界を介して現実を認識するようになります。
仮想世界というのは、コンピュータでいえば3DCGのようなものです。
現実世界そっくりの3DCGで仮想世界を作って、意識は、その仮想世界を現実世界として認識します。
意識が認識するのは、仮想世界に配置された3Dオブジェクトです。

世界にあるものをオブジェクトとして認識するようになったわけです。
これが何を意味するかというと、物があるって形で認識できるようになったんです。
世界がある、世界が見えるって思えるようになったんです。

これ、当たり前と思ってますよね。
でも、カエルみたいに、ただ反応して生きてるだけじゃ、世界がある、世界が見えるって感じないんです。
この進化は大きいんですよ

じゃぁ、世界が見える、物があるって認識できるってことのメリットって何でしょう。
それは、考えることができるってことです。
考えてから行動できるようになったってことです。
考えずに、思わず動くってのが、無意識の反射反応です。
哺乳類になって、意識で考えて行動できるようになったんです。

たとえば、犬はエサを目の前にしたら、すぐに食べようとします。
これは、反射反応です。
でも、しつけたら、「マテ」といわれたら待てるようになります。
「ヨシ」と言われてから食べます。
これが考えて行動するってことです。
これができるには、仮想世界を使ってオブジェクトとして認識する仕組みができたからです。
生まれる前から決まってた行動を、後から変更できたわけです。
これは、カエルより自由度が増えたと言えますよね。
これが犬レベルの意識です。

人になると、さらに自由度が増えます。
人は、過去の出来事を思い出したり、未来のことを想像したりできます。
過去の出来事を思い出すことをエピソード記憶といいますけど、エピソード記憶を持てるのは人間だけです。
これを実現するのが、想像仮想世界です。
現実を認識するときに使うのが現実仮想世界です。
現実仮想世界は、目の前の世界を再現するときに使うものです。
それに対して、想像仮想世界は、過去の出来事や、未来の出来事を想像するときに使います。
思い出したり、想像したりするっていうのは、目の前にない出来事を頭の中で想像してるわけですよね。
つまり、想像仮想世界の中で、オブジェクトを生成したり、動かしたりしてるんですよ。
そして、想像したとおりに行動することもできます。

犬レベルの意識は、目の前の物に対する行動を変更できるだけでしたけど、人は、目の前になくても、自由に想像して行動できるようになりました。
たとえば、「もし、明日、雨がふったら図書館に行こう」とかって、考えることができるようになりました。
これが人レベルの意識です。

さて、ここで東田さんの本に戻ります。
この本には、自閉症の子に対する質問と、その答えって形で書かれています。

たとえば、「なぜ、自閉症の子は、バイバイするとき、手のひらを内側にするの?」って質問がありました。
どうも、自閉症の子は、こんな風にバイバイするそうです。

これに対して、東田さんは、自分ではそんなつもりはないと思ってたそうです。
相手の真似をして、手を振ってるだけだって。
でも、ある日、それを鏡でみてびっくりしたそうです。
鏡に映ってる自分は、手の裏を相手に向けてバイバイしてたことに気づいたそうです。
その時になって、初めて、自分のバイバイがおかしいってわかったそうです。

これは、どういうことでしょう。
他人からみたら、自分がどう見えるかってのは、想像仮想世界に自分を配置して、自分を客観的に認識することです。
どうも、それがうまくできないようなんです。
相手が、手のひらをこっちに向けてるわけです。
そのとき、自分の手のひらがこっちを向いてたら、同じと思ってたわけです。
自分の手のひらを見てるのって、現実仮想世界の自分ですよね。

どうも、自閉症の子は、想像仮想世界がうまく機能しないようです。
すべて、現実仮想世界で理解しようとするようです。
つまり、自分がみた光景を、相手も見てると思ってしまうんです。
だから、手のひらを内に向けてバイバイをしてしまうんです。

それから、自閉症の子は、まねっこ遊びが苦手だっていいます。
まねっこ遊びというのは、先生のしたとおりのポーズを真似る遊びです。
これも同じですね。
先生のポーズを、現実仮想世界で理解するから、うまく真似ができないんです。

それから、人形やおもちゃをつかって遊ぶごっこ遊びも、自閉症の子は苦手だっていいます。
たとえば積み木を食べ物に見立てて、おもちゃの包丁で切って料理したり、食べるふりをしたりするとかです。
これは、目の前にあるオブジェクトを、全く別のオブジェクトとして認識する遊びです。
こういう自由なオブジェクトの変更も苦手みたいです。
東田さんも、ごっこ遊びのどこが面白いのかさっぱりわからないと言っています。

逆に好きなのは数字だって、東田さんは言います。
数字は、決まっていて変化することはありません。
1は1以外の何も表しません。
時刻表やカレンダーは、誰が見ても同じで分かりやすいといいます。
時刻表を見てると、まるで、向こうから自分の頭の中に入り込んでくるような感じがするそうです。
そうやって、気が付いたら、カレンダーや時刻表を記憶してるそうです。

コンピュータプログラムで、オブジェクトというのは、いろんなデータのまとまりです。
たとえば、リンゴオブジェクトなら、赤い色とか、丸い形とか、「りんご」って名前のデータをまとめたものです。
これらのデータは、突きつめていけば、最終的に数字とか文字列になります。
最終的な基本データのことを、プログラムではプリミティブ型といいます。
整数とか小数とか文字列のことで、それ以上に分解できない要素のことです。
自閉症の場合、どうも、プリミティブなデータを直接認識するのが得意なようです。
認識するというか、プリミティブデータをうけとると、そのまま、すっと記憶できる仕組みになってるようなんです。

たぶん、小さい箱が敷き詰められたものを頭の中にもってるんです。
カレンダーや時刻表をみていたら、その箱に、数字が順番に入っていくんでしょう。
自閉症の子が、時刻表を夢中になって読んでるのって、たぶんそんな感じなんでしょう。

僕らは、プリミティブなデータより、オブジェクト単位で物事を捉える方が得意です。
東田さんの本を読んでると、そういいった、データの認識の違いっていうのが見えてきます。

それから、自閉症の子が好きなのは、ミニカーやブロックを並べたりすることです。
東田さんも、並べることは愉快だって言います。
物を並べるのは、現実仮想世界の操作です。
想像仮想世界を使うより、現実仮想世界だけで完結する遊びの方が好きなようです。

それから、回転するものを見るのも大好きです。
扇風機とか換気扇とか、ずっと見ています。
東田さんはいいます。
回転するものは、どこまでも続く永遠の幸せだって。
規則正しく繰り返し動くものは安心するそうです。
ミニカーやブロックを並べるのも、同じなんでしょう。
規則正しいものに安心するようです。
逆に言えば、変化が苦手と言えます。

変化を楽しめるようになるには、変化を予測できないといけません。
もし、次の瞬間、何が起こるかわからない世界に生きていたら、怖くて仕方ありません。
次に起こる変化が予測できるから、それに対処できるし、それを楽しむこともできるんです。

変化を予測するには、想像仮想世界が必要です。
想像仮想世界を使って、次に起こる出来事を予測するわけです。

でも、自閉症の子は、想像仮想世界がうまく機能しないので、変化を楽しむってことができないんでしょう。
それより、いつまでも変わらないもの、いつまでも続くもの、そういったものに安心を感じるんでしょう。

だんだん、自閉症の子の心のモデルがわかってきました。
僕らからしたら、なんでそんなことができないのって思うことも、心のモデルが違うと考えたら理解できます。
逆に、自閉症からみたら、なんでカレンダーや時刻表を見ただけで覚えられないのってなるんでしょう。

まずは、心のモデルが違う人がいるって、そのことに気づくべきだと思います。
今回紹介したのは、まだ、ほんの一部の違いだけです。
この本を読むと、心のモデルが違うと、言葉や時間が、どう感じられるのかってことが分かってきます。
それから、自由意志とは何かってことも、改めて見えてきました。
次回は、そのあたりのことを考察していきたいと思います。

はい、今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく解説していますので、よかったら読んでください。
それと、もうすぐクラウド・ファンディングを開始しますので、こちらもぜひ、楽しみにしていてください。
それでは、次回も、おっ楽しみに!