第594回 神々の沈黙 意識は、たった3000年前に生まれた


ロボマインド・プロジェクト、第594弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

僕は意識を研究しているので、今までもいくつも意識理論を紹介してきました。
たとえば、意識は量子力学の量子効果だという量子脳理論とか、意識とは情報を統合したという統合情報理論とかです。
これらは20世紀の終わりごろに生まれた意識科学の流れを受けた科学理論です。
ただ、残念ながら、どれも科学的に証明されたとも、一般に支持されているとも言えません。
僕も、意識の謎を解明しようとしていますけど、意識科学とは別のアプローチをとっています。
それは、主観で感じるものから意識を解明しようとするものです。
具体的には、脳に障害を負ったり精神疾患の患者が、どのように世界を感じるといった、本人の主観を中心に意識理論を組み立てるものです。
このようなアプローチは、他ではあまり聞いたことがありません。
ところが、僕に近い方法で意識研究をしているのが見つかったんです。
それが、この本『神々の沈黙‐意識の誕生と文明の興亡』です。

作者は、心理学者のジュリアン・ジェインズで、最初に発表されたのは1976年です。
つまり、20世紀の終りに生まれた意識科学とは完全に別系統です。
そして、その仮説がかなり大胆なんです。
なんと、人間が意識を持ったのは、たった約3000年前だというんです。
そんなバカなって思いますよね。
だって、人類が言葉を話し始めたのは7万年前とか20万年前とか言いますし、意識がないのに言葉を話すわけがないです。

僕も、最初、そう思いました。
でも、この本をじっくり読むと、もしかしてそうかもと思ってきました。
実際、この説、完全に否定されたわけでもないんですよ。
哲学者のダニエル・デネットとか、神経科学者のアントニオ・ダマシオにも影響を与えています。
「20世紀で最も印象に残る著作」とか「ダーウィンかフロイトの再来」とまで言われてもいます。
これが今回のテーマです。
神々の沈黙
意識は、たった3000年前に生まれた
それでは、始めましょう!

さっき、ジェインズは僕と同じく、主観から意識にアプローチしていると言いましたけど、具体的にどうやって調査したんでしょう?
それは、神話などの古代の文献を調査したんです。
その結果、およそ3000年前に人類の意識に大きな変化が起こったことが分かったんです。

たとえば古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩に『イリアス』と『オデュッセイア』があります。
成立したのは紀元前8世紀ごろです。
『イリアス』の舞台はトロイア戦争の終盤の数週間です。
その光景を吟遊詩人たちが何世代も詠ってきたのを、ホメロスが集大成したのが『イリアス』です。
『オデュッセイア』は、オデュッセウスがトロイア戦争から帰ってくる10年の旅の物語です。
こちらは、『イリアス』完成の後、ホメロスが新たに物語として組み立てたものになります。
そして、この二つの物語には決定的な違いがあるとジェインズはいいます。
それは、『イリアス』には登場人物の心理描写はほとんどなくて、登場人物の行動は全て神から命令されたものとなっています。
一方『オデュッセイア』では、現代の人間と同じく、自分で考えて行動します。
たとえば、『イリアス』の描写はこんな感じです。

「天からアテナ女神が降りてきた。
彼女はアキレウスの髪をつかみ、『私はお前の怒りを鎮めるために来た』といった。
すると、アキレウスは心の中で喜び、剣を納めた」

つまり、アキレウスが剣を納めたのは、女神から命令されたからで、自分で考えて行動したわけじゃありません。

一方、『オデュッセイア』はこんな感じです。
「最初、私は剣を抜き、眠っている怪物を刺し殺そうと考えた。
しかし次の考えが私を引き止めた。
もし殺せば、我々も死ぬことになる。なぜなら、あの巨大な岩を動かすことができないからだ」

つまり、最初、こう考えたけど、もし、そうすればこうなるだろうと心の中で計画を考えています。
神からの命令でなくて、自分で考えて行動を決定しているわけです。

そのほか、『イリアス』では、アキレウスが戦ったり退いたりするきっかけは、全て、アテナやゼウスといった神が命じて、それに従ったとなっています。
これは、『イリアス』と『オデュッセウス』だけでなく、旧約聖書でも同じです。
旧約聖書の古いものは交渉伝承をまとめたもので、たとえば士師記は紀元前7世紀ごろに成立して、預言者や神が直接声をかけて命令して、人は即座に従うという形式です。

ところが紀元前5世紀頃に成立した旧約聖書の後期になると、登場人物は、「神が選んだ民なのに、なぜこんなことに?」と悩んだり、神の介入や奇跡が減ってきて、神の沈黙がテーマとなってきます。
そして、まさに、この『神々の沈黙』というのが、この本のタイトルにもなっています。

その他、ギルガメッシュ叙事詩など、あらゆる文献を調べた結果、紀元前10世紀ころの人類は、自己意識がなく、神からの声を直接聞いて生きていたといいます。
そのような心を、ジェインズは二つの心、「二分心」と呼びます。
二つの心というのは、右脳と左脳のことです。
左脳には、言語野がありますよね。
二分心時代の右脳には、神が宿っていたというんです。
そして、左脳は、右脳からの神の言葉を直接聞いて、それに従って生きていたというわけです。
逆に言うと、自分で考えて行動していませんでした。
その後、人は左脳で考えて、自分で行動を決定するようになりました。
それが意識の誕生です。
それは、自我をもって自由になったとも言えますし、自分で決めないといけないという責任を負ったとも言えます。

ここ、かなり興味深いです。
というのも、僕は、言葉を話すことが人間の意識だとしてきました。
ところが、これだと、言葉を話しても、意識はない場合もあるとなってしまいます。
ただ、これはありえないんですよ。

僕は、19世紀の生物学者エルンスト・ヘッケルの反復説が好きでよく取り上げます。

反復説というのは、個体発生は系統発生を繰り返すということです。

個体発生というのは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で胚から成長する段階です。
これが、生物の進化と同じ段階を経ているというものです。
つまり、人間の赤ちゃんも最初は魚とそっくりだってことです。
僕はこれを脳の発達に当てはめています。
赤ちゃんの時の記憶ってないでしょ。
一番古い記憶って、3歳とか4歳ぐらいだと思います。
これは、言葉を話し始めたころです。
僕の考えでは、このころに意識が生まれて、言葉を話し始めたんだと思うんですよ。
そして、それは人類の脳の進化を再現していると思っています。

でも、言葉と意識は、本当に同時に発生したといえるんでしょうか?
僕も一番古い記憶は3歳ぐらいだと思いますけど、そんなに多くの記憶はないです。
そのあとの記憶で、強く印象にのこっているのは幼稚園の記憶です。
ちょっとしたことで親に怒られて泣いていた時です。
ふと、泣いてる自分に気付いたんです。
それはいいんですけど、困ったのは、どうやって泣き止むのかがわからなかったんです。
いつも、自然と泣き止んでいたはずですけど、それをどうやってたかを思い出せないんです。
急に泣き止んだら「あっ、泣き止んだ」って思われるのが恥ずかしいって思ったんですよ。
それで、本当は泣いてないんですけど、しばらく「エーン、エーン」って声出しながら、徐々にフェイドアウトして、自然な感じで泣き止んだようにしたんですよ。

何が言いたいかというと、泣き出したのは意識していません。
内側から込み上げてくる感情で自動で泣き出したんです。
でも、泣いてると気が付いたのは意識です。
その瞬間、明らかに意識がありました。
意識をありありと感じたのは、どうしようか悩んだり考えたからです。
自動で泣き止んだんじゃなくて、自分決めて泣き止みました。
たぶん、あの瞬間に、もう一段上の上位の意識が生まれたんじゃないかって思うんですよ。
上位の意識というのは、悩んだり考えたりして、最終的に行動を決定する意識です。
上位の意識が生まれたのが幼稚園ぐらいなんです。
3~4歳のころから言葉は話す意識もありました。
でも、それは、コミュニケーションがとれて、相手の指示通り行動する下位の意識です。

別の例で考えてみます。
たとえば、飲み会で酔っぱらって、朝、気が付いたら自宅のベッドで寝てたとかです。
タクシーに乗って帰ってきたそうですけど、一切覚えていません。
タクシーで会話してたはずですけど、それは意識がなくても会話していたわけです。
これは、酔っぱらって上位の意識が機能しなくなって、下位の意識だけ機能していたのかもしれません。

僕は、酔っぱらって記憶が飛ぶことは無いですけど、手術後の記憶が数週間消えた経験はあります。
20代の終わりごろ、大きな手術をして、その数か月後、二度目の手術したんです。
手術後、ベッドを上げると、吐き気がするって看護師さんに話したら、「それ、一回目の手術の後も言ってた」って言われました。
それを聞いて、一回目の手術の後の記憶がよみがえったんです。
それまで、術後、数週間の記憶が完全に消えてたんです。
普通にしゃべったりしてたのに、それを一切、覚えていないんですよ。
おそらく、その時、下位の意識だけで生活していたんでしょう。
そう考えたら、ChatGPTは普通に会話ができるので、下位の意識はあるけど、上位の意識がないといえるかもしれません。

その他、スピリチュアルな話ですけど、ある人が、事故に遭って臨死体験で別の世界に言って、しばらく別の世界で暮らしていたって話を思い出しました。
その人は、こっちの世界では、事故から回復して、普通に過ごしていたそうなんです。
ある時、突然、こっちの世界の自分の体に意識が戻ったそうで、その間、別世界にいた記憶しかないそうなんですよ。
こっちの世界の記憶はないけど、周りの人と普通に会話して、普通に暮らしていたたそうなんです。

話を戻します。
ジェインズによると、3000年以上前の人類は、右脳の神の声を聴いて従うだけの二分心です。
これが、下位の意識です。
それが、その後、左脳で考えて行動するようになったというわけです。
これが上位の意識です。
現代人は、神の声を聞けなくなりましたけど、ただ、何かのきっかけで聞こえることがあります。
一つは統合失調症です。
統合失調症になると幻聴が聞こえます。
「この部屋を出るな」とか「薬を飲むな」と命令する声が聞こえるそうです。
これって、二分心で聞こえる神の声と同じですよね。

統合失調症以外の幻聴の話は、たとえば第569回でも取り上げました。
ある人が、山で足を負傷して、あまりにも疲れたので、ちょっとだけ横になろうとしたら、「ここで休んではだめだ」って頭の中で声が聞こえて、その声に励まされて無事下山できたそうです。
もし、あの時、横になっていたらそのまま眠り込んで、死んでいただろうって話でした。
その他、冒険家がクレパスに落ちたときも、頭の中ではっきりとした声が聞こえて、その声の言う通り行動したら、無事、助かったって話もありました。
どうも、危険な状況とか、意識が朦朧となったとき、右脳の声が聞こえるのかもしれません。

それにくらべれば些細なことですけど、僕も、同じような経験があります。
よく、夜仕事してて、ちょっとだけ休もうと思って、ソファーで横になってうとうとすることがあるんですよ。
このまま寝たら、間違いなく、朝まで寝てしまいます。
そんなとき、誰かに呼ばれて、はっと目が覚めることがあるんですよ。
もちろん、部屋には誰もいません。
でも、はっきりと耳から聞こえた感じがします。
うとうとしてたので上位の意識は寝ていたんでしょう。
そんな時、普段聞こえない右脳の声が聞こえたのかもしれません。

もし右脳の声が聞けるなら、左脳でいろいろ考えるより、右脳の声に従った方が正しい決断が下せるのかもしれません。

その話で思い出すのはネドじゅんさんです。

ネドじゅんさんは、ある日、突然、右脳の声が聞こえるようになったそうです。
それまでは、左脳で考えてて、自動思考が止まらなかったそうです。
自動思考というのは、「今日、何しよ」「あの時、ああすればよかった」とかって、ずっと頭の中で考えている状態です。
まぁ、普通と言えば普通です。
それが、ある日、突然消えたそうです。
そしたら、自分とは別の声、右脳の声が聞こえるようになったそうです。

ネドじゅんさんは、その当時、荷物の配達の仕事をしていたそうです。
配達しても、家に誰もいないと再配達になって、だいたい、半分ぐらいは再配達になるそうです。
それが、その日、次はこっち、その次はこっちって配達する順番が聞こえたそうです。
「えっ、そっち?」って予定とは違うことを言われたそうですけど、言われた通りに配達すると、その日は、全員在宅で、再配達がゼロだったそうです。
これが右脳の力です。
ネドじゅんさんは、古代の人間は右脳で生きていた。
古代の脳に戻った方が人生が上手くいくと言います。
まさに、これが3000年以上前の二分心で聞いていた神の声なんでしょう。

この二分心の考えには、二種類の捉え方ができます。
一つは、自分とは別の声が聞こえるという点です。
もう一つは、その声に従うだけという点です。
つまり、自分で考えずに、言われた通りのことをするだけということです。

これも、生物の進化から考えたらわかります。
カエルとか進化的に古い生物は、環境に反応して生きているだけです。
虫がいたら捕まえて、天敵がいたら逃げてとかです。
それが、人間になると、自分で考えて行動できるようになります。
ただ、それは一瞬で起こったんじゃなくて、段階を経て起こったわけです。
中間にあるのが神の声に従うって段階です。
自分の行動は誰かが決めて、それに従うだけって生き方です。

3000年以上前の二分心の時代の人間は、言葉を理解する下位の意識だけだったんです。
その時代は、神とか、王様の言う通りに生きるだけだったんでしょう。
その後、上位の意識が生まれて、ようやく、自分で考えて行動できるようになったんです。
本当にそうなのか、3000年以上前の人間の意識がどんなものだったのか、現代科学では検証のしようがありません。

ただ、スピリチュアルな話になりますけど、僕が、個人的に聞いた参考になる話があります。
その子は、テレビで古代エジプトのアニメを見たそうです。
それは、王様が亡くなったとき、王に仕えていた女官とか侍女とか、多くの人が王といっしょに生き埋めにされるってシーンだったそうです。
その子は、それを見たとき、急に涙が出てきて、かつて、これは自分も経験したって思い出したそうです。
いわゆる前世の記憶です。
まぁ、本当かどうかはわからないですけど、興味深かったのは、その時の感情です。
その時、特に何の疑問も持たなくて、命令されたから当たり前のように生き埋めにされたそうです。
これって、まさに下位の意識ですよね。
自分で考えて行動しなくて、命令されたとおりに行動するしかしないタイプの意識です。

王と一緒に生き埋めにされたという例は古代エジプトだけじゃなくて古代中国とか、世界中で見られます。
3000年以上前の人類は、二分心で、神とか王様とかの命令で動くだけだったのかもしれません。
その後、中国の兵馬俑とか、生き埋めじゃなくて人型を使うようになったのは、人類が上位の意識をもつようになったからかもしれません。

こう考えると、下位の意識の使い方が重要だって思います。
右脳からの声は、たいてい、正しい方向に導きます。
それは、登山や危険な状況で聞こえます。
ウトウトしてたら起こされたり、時には、荷物の配達の順番を教えてくれたりします。
これは、下位の意識を使って、言われた通りに素直に従った方がいいです。

ただ、何も考えずに、言われたことをするだけは楽でいいんですけど、時に、それを悪用する人がいます。

たとえば、新興宗教とか政治団体のテロリストとか、命令どおりに従うように洗脳します。
この洗脳というのも、上位の意識を停止させて、下位の意識だけで生きるようにさせているのかもしれません。
洗脳されると、上からの命令は神の声のように聞こえて、疑うことなく、ただ、盲従するだけとなります。

右脳の神の声を聞く力と、自分の頭で考える力、この両方を適切に使い分けるって、じつは、かなり難しいんです。


はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!