ロボマインド・プロジェクト、第87弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回は、ホモ・サピエンスが時間をどうやって獲得したかって話でした。
時間を認識する仕組みを獲得して、時間を理解できるようになったってことです。
それが、エピソード記憶の仕組みです。
具体的には、今、自分が経験してる出来事を保存する仕組みと、それを取り出して、頭の中で再生する仕組みです。
経験した出来事を、時間順に保存する仕組み、これこそが時間です。
それから、もう一つ重要なことがあります。
それは、過去の出来事を、どうやって思い出すかです。
まず、今、見えてる世界です。
目の前の現実は、目からの情報を基に、頭の中に仮想世界を創り上げて、意識はそれを認識しています。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」をご覧ください。
思い出は、それとはちょっと違います。
今、現在の仮想世界とは別に、想像仮想世界というのを作って、思い出はそこに展開されます。
今見てる目の前の世界と、思い出とが区別できないと、頭がこんがらがってしまいますからね。
エピソード記憶の仕組みができて、時間を認識できるようになったんですけど、ホモ・サピエンスが獲得したのは、これだけじゃありません。
もう一つは、言葉です。
言葉なら、他の動物でも話すって話をしましたよね。
ホモ・サピエンスが獲得したのは、もっと複雑な言語です。
文法を持って、文を作れる言語です。
今回のテーマは、言語です。
まずは、言葉を使える最低限の構造について説明します。
第84回「ハラリがしてた勘違い!?」で、サバンナモンキーの言語の話をしました。
サバンナモンキーは、「ライオンだ!」といった言葉を話すそうです。
その言葉を聞いた仲間は、驚いて、木に登ったりします。
「ライオンだ!」って聞いたサルは、「怖い」って感情が発生して、ライオンから逃れるために、木に登るわけです。
感情は行動の原動力となります。
怖いという感情が、逃げるという行動を引き起こしてるわけです。
当たり前のことを言ってると思うかもしれないですけど、そうじゃないんです。
ここに、言葉が生まれた根本原因があるんです。
怖いとか、痛いといった感情や感覚をもてるのは意識があるからです。
じゃぁ、意識を持ってないといわれるカエルはどうでしょう。
カエルも、天敵の鳥の姿を見ると、すぐに池に飛び込んで隠れます。
これは、天敵を認識したら、それに反応して、自動で体が動いて逃げてるだけです。
人間でいうところの、無意識の脊髄反射と同じです。
意識がある場合は、まず、感情や感覚を、意識が感じるわけです。
そして、その後の行動は、自分の意志で決めることができます。
無意識では、体が勝手に動くので、自分の意志で決めれません。
意識と無意識の最大の違いは、自由意志があるか、無いかなんです。
詳しくは、第57回「誰も指摘しない自由意志の本当の意味」をご覧ください。
さて、意識を持って、自由意志を持つことで、自分の行動を変更できるようになりました。
怖いって感情が起った時、自分だけが逃げるんじゃなくて、仲間にも知らせることができるようになりました。
そこで「ライオンだ」と、鳴き声で知らせたわけです。
これが、言葉の始まりです。
つまり、意識、自由意志、言語って繋がっているんですよ。
こんなこと、誰も指摘してないですけどね。
さて、この言語、表現してるのは、頭の中の仮想世界の状況ですよね。
もっと言えば、現在の状況です。
ホモ・サピエンスはエピソード記憶を獲得しましたよね。
エピソード記憶を使うと、過去の出来事を思い出すことができます。
だから、「ライオンだ」って今の状況だけじゃなくて、「ライオンがいた」って過去の状況も、頭の中に思い描くことができるわけです。
次は、それを伝えるわけです。
そうなると、今までと同じように「ライオンだ」といっただけじゃ、ダメですよね。
それじゃ、聞いた仲間は、近くにいると勘違いしてしまいます。
だから、それも正確に伝えないといけません。
今じゃなくて、過去にライオンがいたってことです。
じゃぁ、過去の状況は、どこにあるんでしょう?
それは、頭の中の仮想世界ですよね。
正確に言えば、過去の状況が展開される想像仮想世界です。
頭の中には、現在の状況が展開される仮想世界と、過去の状況が展開される想像仮想世界があるわけです。
意識が認識してる仮想世界の種類が違うわけです。
言葉は、意識が認識してる世界を表現するわけです。
違いがあるなら、その違いも、言葉で表現しないといけませんよね。
過去のことなのに、「ライオンだ」じゃダメなんです。
「ライオンがいた」となるんです。
こういうの、学校で習いましたよね。
「過去形」ですよね。
文法がでてきましたよね。
言語らしくなってきました。
もう少し探っていきます。
意識が認識してるのは仮想世界です。
仮想世界の中に、ライオンとか、木とか、山があるわけです。
そこに、ライオンが登場して「ライオンだ」って叫ぶわけです。
これ、日本語で分かりやすく説明するために「ライオンだ」って言ってますけど、実際は、「キャキャー」とかいった鳴き声なわけです。
このうち「キャー」がライオンを表すとかじゃないんですよ。
「キャキャー」で、ライオンがいる状況、全体を表してるわけです。
つまり、「ライオン」とかって名前を付けてるわけじゃないんです。
動物の言語には、物の名前って概念がないわけです。
でも、犬にポチとかって、名前を付けますよね。
ほんで、「ポチ」って読んだら、来るようになりますよね。
これって、自分の名前を理解してるんじゃないって思いますよね。
さて、どうでしょう。
これは、「ポチ」って言われたら、言った人のところに行くって行動を結び付けてるだけなんですよ。
状況と行動を結び付けて覚えてるわけです。
物には名前というものがあって、自分の名前が「ポチ」とか理解してるわけじゃないんですよ。
もし、名前って概念を持っていれば、人間に名付けられなくても、犬同士でお互いに呼び合ってるはずです。
そんな犬、見たことないですよね。
だから、動物は、名前って概念を持ってないんですよ。
なぜ、名前って概念を持たないかと言うと、その必要がないからです。
お互いに共通に認識できるのは、今、見えてる現在の状況です。
現在の状況に対して、正しい行動が取れればいいわけです。
「ポチ」と呼ばれたら、呼んだ人のところに行くとか。
「お手」と言われたら、前足を上げるとか。
「ライオンだ」と言われたら、木に登るとか。
さて、ここでホモ・サピエンスは、過去の状況を認識できるようになったわけです。
それは、今、目の前の状況とは違うわけです。
相手と、共有してない世界です。
そうなると、自分の頭に思い描いてる世界を、相手に伝えないといけないわけです。
「山にライオンがいたよ」とか、伝える必要があるわけです。
ここで、場所や物に名前を付ける必要がでてくるわけです。
頭の中に思い描いてるのは仮想世界です。
そこには、ライオンや山や川があるわけです。
これらは、オブジェクトです。
自分が思い描いているオブジェクトを、相手にも知らせる必要があるわけです。
ここで、初めて、名前を付ける必要性がでてきたわけです。
山とかライオンとかです。
これが単語です。
こうして、「山にライオンがいた」といった文が作られるわけです。
文を作れる言語を発明したわけです。
これを聞いた相手は、頭の中の想像仮想世界に、山オブジェクト、ライオンオブジェクトを配置するわけです。
そこには、時間を示すラベルも貼ることができて、ラベルには「過去」と書いてあるわけです。
こうやって、文の意味を理解して会話が成立するわけです。
これが言語です。
7万年前に起こった認知革命。
ここで、エピソード記憶の仕組みを手に入れたホモ・サピエンスは、時間を理解することができました。
そして、言語も手に入れました。
今までの言語とは違って、物に名前を付けたり、現在と過去の出来事を区別したりできる言語です。
文法を持った文を作ることができるようになったんです。
ようやく、言語まで到達しました。
次は、いよいよ、物語です。
言葉を獲得したホモ・サピエンスは、どうやって物語を生み出したのでしょう。
それでは、次回も、お楽しみに!