ロボマインド・プロジェクト、第557弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回から、新しい本を読んでいきます。
それは、この本『NEXUS 情報の人類史 上:人間のネットワーク』です。
3月20日に出たばかりの新刊で、著者は、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリです。
次に何を読もうかなと思ってたところ、この本を解説してほしいとリクエストがあって見たら、サブタイトルが「情報の人類史」となっています。
じつは、情報っていうのは、僕の今の一番ホットなテーマなんです。
第553回~556回で『意識はどこからやってくるのか』を紹介しました。
ここで、僕なりに解明した意識について説明しました。
これは、意識がどの分野に属するかを示した図です。
これを見たらわかると思いますけど、意識は、脳というソフトウェアの一部になります。
脳をコンピュータで考えると、脳のニューラルネットワークがコンピュータの回路で、その上で動くプログラムが意識というわけです。
つまり、意識は脳内で情報処理しているってことです。
問題は、どんな情報処理をしているかです。
情報理論は、クロード・シャノンによって1948年に提唱されました。
情報量とか通信モデルについての理論です。
ビットという言葉はシャノンが作ったと言われています。
こうして、情報というあいまいなものが、数式で厳密に扱えるようになったわけです。
数式で扱えるようになると科学になりますよね。
その後、情報理論はものすごい発展しました。
ただ、情報理論で扱うのは、情報の量とか、圧縮して、いかに効率よく情報を伝達するとかです。
まぁ、それも大事ですけど、情報って、もっと重要なことがありますよね。
それは情報の中身です。
伝える内容、または意味です。
情報理論って、情報の中身について、一切議論しないんですよ。
理由は単純です。
意味は測れないからです。
定量的に扱えないと科学で扱えません。
だから情報理論では情報の内容とか意味は一切扱わないんです。
でも、測れないからって、一番重要な意味を無視するっておかしいでしょ。
これが理系の考えです。
ここに、ハラリが登場します。
ハラリは歴史家というだけあって、情報の意味について考えます。
どういうことかというと、どんなメッセージが歴史を動かしたかとか、どんな情報が広く普及したかとかを考えるんです。
さらに、それがどうやって生み出されるか、人類の歴史をさかのぼって考えます。
ようやく、僕が探し求めていたものが見つかりました。
これが今回のテーマです。
NEXUS①
情報の意味
それでは、始めましょう!
情報がどれだけ人を動かしたか。
これが最も基本的な考えです。
でも、そもそも、人を動かすとはどういうことでしょう。
ここで、ダンバー数というものをを考えます。
ダンバー数とは、人間が安定的な社会を維持できる人数の上限です。
つまり、人が顔をみて覚えていられる人数の上限で、150人とかいわれています。
まぁ、なんとなくわかりますよね。
150人ぐらいの村なら、たぶん全員の顔と名前を憶えていて、よそ者が来たら、すぐにわかります。
チンパンジーやゴリラの場合、50人ぐらいの群れを作るので、ダンバー数は50ぐらいと思われます。
ダンバー数は、脳の大きさで決まるようです。
ただ、人間の場合はどうでしょう。
同じ仲間として、たとえば国がありますよね。
日本だと1億人以上います。
宗教というのもありますよね。
キリスト教だと25億人以上です。
そのほか、同じアイドルのファンとか、同じスポーツチームのファンとかも仲間意識をもちますし、どれも軽くダンバー数を越えています。
これは、ダンバー数を越えて仲間意識を持たす仕組みを人類は持っているということです。
それは「物語」だとハラリはいいます。
この話は、『サピエンス全史』でも語られていました。
約7万年前、ホモ・サピエンスは物語を獲得しました。
抽象的な概念である神とか宗教を想像する能力です。
同じ神を信仰する仲間なら信頼できると認めるわけです。
それまでは、同じ村に育って、何年も時間をかけて、それでようやく仲間と認められたわけです。
それが、同じ神を信仰するとか、同じアイドルのファンと知るだけで、一瞬で仲間意識を持ちます。
これで巨大な集団を作れます。
これは生存に有利ですよね。
7万年前、ホモ・サピエンスはこの能力を獲得したんです。
これを認知革命といいます。
同じ時期、ネアンデルタール人もいました。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより体も頭も大きかったです。
おそらく、ホモ・サピエンスより知能も高かったと思われます。
ところが、ネアンデルタール人は滅んで、ホモ・サピエンスが生き残りました。
ホモ・サピエンスより知能が高かったのに、ホモ・サピエンスが獲得したものをネアンデルタール人は獲得しなかったからです。
それが物語です。
物語が人々を結びつけたわけです。
ちなみに、この本のタイトル『NEXUS』とは結び付けるという意味です。
さて、それじゃぁ、ホモ・サピエンスの脳は具体的に何を獲得したんでしょう?
脳が獲得したということは、情報処理であることは間違いありません。
ここを、もう少し掘り下げていきます。
それまで脳が扱っていたのは情報の二つの次元だとハラリはいいます。
それは、客観的現実と主観的現実です。
客観的現実というのは、目に見える物事です。
例えば、太陽とか星です。
太陽も星もあなたが見ていなくても存在しますよね。
見てないときは消えたりしません。
そして、あなた以外の人も見ることができます。
これが客観的現実です。
もう一つは主観的現実です。
これは、痛いと感じたり、楽しいや嬉しいと感じることです。
これは、あなたしか感じることができません。
ほかの人は、あなたの痛みを感じることができません。
そして、あなたが感じないとき、それは存在しません。
これが主観的現実です。
ホモ・サピエンスもネアンデルタール人もチンパンジーもここまでは同じです。
だから、目の前にいる人が仲間か、よそ者か区別できます。
なぜなら、それは誰もが見える客観的現実だからです。
そこに、ホモ・サピエンスの脳は、第三の次元を獲得しました。
それが神とか宗教とか物語です。
いわば抽象的な概念です。
心でしか感じられなくて目に見えません。
かといって主観的現実とも違います。
主観的現実は、あなたの心しか感じられません。
でも、神はあなたの心だけでなく、他の人の心の中にも存在します。
主観的現実は、あなたが感じないとき存在しません。
でも、神は、あなたが考えていないときでも存在します。
その意味で、星や太陽のような客観的現実といえます。
でも、誰もそれを見たことがありません。
そんな不思議な情報、それが第三の次元、概念です。
具体例を挙げます。
このおヒゲのおじさん、誰か知っていますか?
そう、イエス・キリストですよね。
もう、世界中の人が見たらすぐ答えられます。
でも、イエス・キリストで重要なのはヒゲじゃないですよね。
キリスト教の神ということです。
正確に言うと、「神の子」です。
「神の子」、ここが重要なんです。
神というのは抽象的な概念で目にも見えないですよね。
でも、イエス・キリストは実在した人物です。
客観的現実として存在します。
何が言いたいかというと、イエス・キリストという存在は、目に見えない「神」という概念と、目に見える客観的現実を結びつける存在なんです。
これが、ホモ・サピエンスが獲得した第三の次元の情報です。
次はお金です。
コインは目に見えて、実際に触れることもできます。
でも、コインの重要なところは素材とか、重さとかじゃないですよね。
お金で重要なのは、価値です。
100円玉には100円の価値があります。
100円の価値があるから、100円のお菓子と交換することができるわけです。
価値という抽象的な概念を、客観的現実に存在する形で示したのがお金です。
抽象的な概念を扱う機能、ホモ・サピエンスはこの能力を獲得したわけです。
抽象的な概念の一つとして、神という概念があるわけです。
我々を守ってくれる神とか、我々の共通の祖先としての神とかです。
この時の我々というのが、同じ仲間という感覚です。
同じ仲間という感覚は、それまでは、何年もかけて築き上げてきた主観的現実です。
それが、同じ神を信仰していると知るだけで、一瞬で同じ仲間と思えるんです。
これが情報処理のスゴイとこです。
このおかげで、150人というダンバー数が、一瞬で、その100倍とか1000倍とかになるんです。
じゃぁ、どのくらいで100倍、1000倍になるのか。
それは客観的現実に依存します。
たとえば聖書という客観的現実の場合、どれだけの速度で普及するかによるということです。
これは、テクノロジーに依存するともいえますよね。
いまや、SNSのインフルエンサーは、一瞬で何百万、いや何億人に物語を届けることができるんです。
これが新しい情報理論です。
7万年前に戻りましょう。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより体力も知能も優っていました。
知能が高いということは、ダンバー数はネアンデルタール人の方が優れていたと思います。
ホモ・サピエンスが作れる集団の数が150人だとしたら、ネアンデルタール人は200人作れたかもしれません。
でも、ホモ・サピエンスは、そこに、第三の情報処理能力を獲得したんです。
それによって神や神話を作り出し、あっという間に巨大な集団を築き上げました。
今までとはけた違いに巨大な集団です。
さらに物語は、今まで以上に強い仲間意識を持たせます。
強い仲間意識は、仲間でない者に強い憎悪を抱きます。
正確には何が起こったかはわかりませんけど、人類の歴史を見たら、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人に何をしたか想像できます。
ホモ・サピエンスにネアンデルタール人は滅ぼされたんでしょう。
第三の情報処理能力は神やお金を生み出しましたけど、さらに重要なものも生み出しました。
それは、言語です。
いや、単に言葉だけなら、チンパンジーでも教えたら理解できます。
これを見てください。
https://www.youtube.com/watch?v=prNaFEfJjqY
8:02ぐらいから。
「鍵を冷蔵庫にいれて」って言ったら、ちゃんとできましたよね。
ここで顔を隠して命令しているのは、表情から意図を読み取らせないためです。
つまり、チンパンジーはちゃんと文の意味を理解しているってことです。
つまり、言葉や文の意味を理解するだけなら、チンパンジーでもできるわけです。
じゃぁ、チンパンジーは何ができないんでしょう?
それは、目の前にない出来事の文の意味を理解することです。
いま、「鍵」も「冷蔵庫」も目の前にありましたよね。
これは理解できるんです。
ところが、「昨日、動物園に行った」といった文は作れないし、理解できないんです。
なぜなら、チンパンジーの脳が理解できるのは客観的現実だけだからです。
客観的現実は、見てないときにも存在はしますけど、見てないときには、その人の心には存在しません。
昨日行った動物園は、今、見てないので、チンパンジーの心には存在しないんです。
心に存在しないものは言葉にできません。
情報の意味とは何か、少しずつわかってきましたよね。
それは、客観的事実でもなく、主観的事実でもなく、第三の情報です。
それは、抽象的な概念です。
これが、シャノンの情報理論で切り捨てられた意味の部分です。
ただ、まだ、これだけでは解像度が荒いです。
次は、概念の中身を分解していきます。
たとえば、マルクスは唯物論を唱えました。
マルクスは、物質的な価値を重要視して、物語は軽視しました。
マルクスの考えだと、宗教も国家主義も意味をなさなくて、人間の行動は物質的な価値だけで説明します。
たしかに、2003年に起こったイラク戦争はアメリカとイギリスがイラクの油田を征服しようとして起こしたものです。
これは説明できます。
じゃぁ、油田が欲しいなら、なぜ、アメリカはノルウェーの油田を征服しなのでしょう。
この理由が説明できません。
つまり、マルクスの唯物論もかなり単純化されているということです。
マルクスだけじゃなくて、経済学は人間の行動は物質的価値だけで説明しようとしますけど、そんな単純じゃありません。
それはほんの一部です。
人々は、もっと大きなものに突き動かされます。
それが物語です。
宗教とか国家とか、SNSのインフルエンサーとか、それから陰謀論。
こういった情報の中身で世の中が動いているのは誰の目にも明らかですよね。
ただ、そういった情報の意味どう扱っていいのかわからなかったわけです。
それが、少しずつ解明されてきました。
次回も続きます。
はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第557回 NEXUS①情報の人類史 情報の意味
