第559回 NEXUS③情報テクノロジーと斎藤知事


ロボマインド・プロジェクト、第559弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、ユヴァル・ノア・ハラリの『NEXSU 情報の人類史』の三回目です。

前回、第558回では、文書とか、印刷とか、脳の外の情報テクノロジーを整理しました。
整理の基準として取り上げたのが情報の正しさです。
正確に言うと、間違わない情報テクノロジーと、自己修正メカニズムを持つ情報テクノロジーです。
絶対に間違わず、修正できない情報テクノロジーが聖典です。
聖書は神が書いたもので、間違うことはありません。
間違うとしたら、それは解釈する人であるとするのが聖典テクノロジーです。
それに対して、間違うことを想定して、自己修正メカニズムを持つ情報テクノロジーが科学です。
たとえば、精神科医のバイブルといわれるDSMの1952年版には同性愛が精神障害として載っていましたけど、74年版では削除されました。
これが自己修正メカニズムです。
こんな風にして、ハラリは情報テクノロジーで見事に人類史を整理するんです。
情報テクノロジーから本質が見えてくるんですよ。
いやぁ、目からウロコです。

さて、今回は「政治システム」です。
政治って、いろんな人が、それぞれの思惑で発言するので、何が正しいかわからないですよね。
たとえば、僕は兵庫県に住んでますけど、斎藤知事問題で県民は大混乱しています。
もう、誰の言ったいることが正しいのか、さっぱりわかりません。
でもね、これもハラリの情報テクノロジーに当てはめたら、ことの本質が見えてきます。
表面的なうっすい議論とは違う、本質の見抜き方をお見せしましょう。
これが今回のテーマです。
NEXUS③
情報テクノロジーと斎藤知事
それでは、始めましょう!

政治システムは大きく民主制と独裁制の二つに分けられます。
これを情報テクノロジーで整理してみます。
民主制の特徴は選挙です。
選挙によってトップが選ばれます。
だから、政策に失敗したり、成果が出せないと国民によってトップが交代させられます。
これは一種の自己修正メカニズムとも言えますよね。
つまり、民主制は、科学と同じで自己修正メカニズムを持つ情報テクノロジーと言えます。

じゃぁ、独裁制はどうでしょう?
独裁制はトップの独裁者は代わりません。
選挙がないか、あったとしても形だけです。
たとえば、金正恩の支持率は100%です。
反対票を投じると抹殺されるから、だれも反対できません。
実質、トップを変更する方法が存在しないわけです。
これは、情報テクノロジーでいうと、聖典テクノロジーになります。
聖書は間違うことがないので、聖書を修正する方法は存在しません。
こんな風に、政治体制も情報テクノロジーできれいに分類できます。

次は、民主制や独裁制が、本当に機能するのか考えてみます。
実はこれ、結構、難しいんですよ。
まず、民主制から考えてみます。
民主制の基本は議会です。
議員は、国民の声を聞いて、それを議会で討論します。
国民は、議会でどの議員がどんな主張をしているかとか、議論を監視します。
そして選挙では、国民は自分と同じ考えの議員に投票します。
こうやって、国民の声が政治に反映されるわけです。
これが自己修正メカニズムをもった民主制です。

さて、これを実現するとしましょ。
議員が国民全員の声を聞いたり、国民全員が議会を監視するとか、人口が1万人ぐらいの小国なら可能です。
でも、国土が広いと不可能ですよね。
高度な情報テクノロジーが存在しないととても無理です。
つまり、民主主義を実現するには情報テクノロジーの発展が不可欠というわけです。

大規模な民主制が最初に行われたのはオランダでした。
1618年、アムステルダムで毎週刊行される印刷物が登場して、これが後に新聞になりました。
新聞の目的は、議会や議員の動向を国の隅々まで届けることです。
これにより、地方に住んでいても国の状況を把握できるようになります。
やがて新聞は複数刊行されるようになって、より早く、より正しい情報を届けようと競争が生まれました。
そうなると、ライバル紙の間違いを指摘したり、その前に自らの間違いを修正するようになります。
つまり、自己修正メカニズムも働くわけです。
情報テクノロジーの進歩で民主制を実現できるようになったわけです。

次は独裁制を見てみましょう。
古代ローマの独裁といえば、まず、皇帝ネロを思い浮かべます。
ネロは、気に障る人物を次々に処刑していきました。
母親のアグリッピナも、妻のオクタウィナも処刑しました。
ネロの悪口を言ったというだけで、処刑された人もいます。
ネロのような独裁者は、自分に反抗する国民はだれでも殺そうとします。
ただ、ローマ帝国は広大で、地方の国民が何を言っているのか、ネロには知るすべがありませんでした。
結局、地方で起こった複数の反乱が引き金となってネロの時代は終わりました。

つまり、独裁制を貫くには、国中に目を配る必要があります。
国民全員を監視し、独裁者に反抗するものをあぶりだして取り除く仕組みです。
20世紀になって、ようやくそれが実現できるようになりました。

たとえば、ナチスです。

1933年、アルプスの小さな村で村議会が開かれて村長が選出されました。
ところが、その三日後、ナチスから送られてきた党員に無理やり村長を交代させられました。
人民が本当に望んでいることを知っているのはナチスだけだという理由からです。
その後、その村は、簿記協会から登山クラブまで、約50の教会やクラブがナチスの要求に合わせて鍵十字の旗を掲げ、ユダヤ人の所属を禁じられました。
ナチスの考えだけが正しく、国民はそれを受け入れよということです。
聖書に書かれていることだけが正しく、世界中に宣教師を派遣してキリスト教を布教するのと同じといえます。
聖典テクノロジーと独裁制は同じ構造をしているといえますよね。

ソ連のスターリンはもっと極端です。

ナチスは限定的とはいえ、まだ自由がありましたけど、スターリンは何一つ例外を認めませんでした。
1928年、第一次五か年計画が始まった頃、どの地区やどの村にも政府の役人や秘密警察が入り込んでいました。
まず、新聞やラジオ局が彼らの統制下に入り、スターリンの意にそぐわない放送はできなくなりました。
情報テクノロジーが、政府の都合のいい情報を国民に知らせるために使われるようになったわけです。
さらに、学校や青年団体、スポーツ協会まで彼らの統制下におかれました。
たとえば10人ほどが集まってサッカーをしたり、森を散歩したりするときまで、必ず党と秘密警察の諜報員が立ち会っていました。

秘密警察は地方行政にくまなく派遣されていましたけど、それが誰かはわかりません。
つまり、地方の行政長官は、誰かはわからない秘密警察に常に監視されているわけです。
そして、党に歯向かう発言でもしたらすぐに密告されて強制連行されたり処刑されるわけです。
情報テクノロジーを使った完璧な監視システムです。

国の隅々までこんなことが行われていたのですから、党の内部はもっと厳しいです。
なぜなら、独裁者は、側近の裏切りを最も警戒しますから。
1917年のロシア革命以前から仕えていた古参の党員も次々と処刑や投獄されて、1939年の第18回の党大会まで残ったのはわずか2パーセントでした。
これらの粛清を行ったのが秘密警察です。

もしかしたら、そんなことをしてるから独裁制は崩壊するんだと思うかもしれません。
でも、それは間違いです。
歴史上、独裁制が崩壊するのは側近の裏切りか地方の反乱と決まっています。
ナチスもソ連も、それらを完璧に封じ込めたんです。
それが可能になったのもテクノロジーのおかげです。

民主制も独裁制も最も古い政治体制です。
ただ、それを大規模な国家で実現できたのは20世紀になってからでした。
それに不可欠なのが情報テクノロジーです。
勘違いしてはいけないのは、情報テクノロジーが民主制や独裁制を生み出したわけではないということです。
情報テクノロジーの使い方によって、独裁制も民主制も実現できるということです。

独裁制とは、国民を犠牲にしてでも、現在の体制を維持しようとするシステムです。
だから、国民を監視するために情報テクノロジーを使います。
それに対して民主制には自己修正メカニズムがあります。
つまり、国民が生きやすい社会を作るために、現在のトップを変えるメカニズムが備わっているわけです。
そのために、新聞なテレビなどで国民が中央を監視します。

現代社会のほとんどは民主制で運営されています。
ただ、その中にあっても、独裁制に向かっているのか、民主制に向かっているのか、方向性の違いがあります。
だから、国民としては、どちらを目指しているのか見抜く必要があります。
ただ、当事者が独裁制を目指していると言うわけがありませんので、本人の言うことを聞いても意味がありません。
じゃあ、どうやって見分けるのか。
それは、情報テクノロジーの使い方を見ればわかります。
それでは、その実例として、兵庫県の斎藤知事問題を見ていきましょう。

簡単におさらいしておきます。
2024年3月に「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」とする告発文書が、兵庫県警、NHK、神戸新聞、産経新聞、朝日新聞、国会議員、県議など10か所に匿名で送られてきました。
内容は斎藤知事のおねだりやパワハラ疑惑でした。

これに対して、斎藤知事は事実無根で、公益通報にも当たらないとして告発者の特定を指示しました。
すると、告発者は県民局長だとすぐに特定され、公用パソコンが押収され、県民局長は懲戒処分となりました。

その後、兵庫県では百条委員会が設置され、県民局長も百条委員会に呼ばれることになりました。
ところが、百条委員会に呼ばれる前日、県民局長は自殺しました。
これを受けて、メディアは、斎藤知事が県民局長を殺したと強く批判しました。
そして、議会は不信任決議案を全会一致で可決して知事再選の選挙が行われました。

斎藤知事も出馬することになりましたけど、連日、斎藤知事のパワハラ問題、おねだり問題がテレビ、新聞で大きく取り上げられて、斎藤知事を支持する人はほとんどいませんでした。

ところが、風向きが変わってきました。
何が起こったかというとSNSです。
今までの内容は、全て新聞やテレビなどの大手メディアが報道してきたことです。
それに対してSNSでは報道されてない情報が次々に公開されてきました。
特に、NHK党の立花孝志が出てきたことは大きかったです。

立花孝志は、なんと、押収された県民局長のパソコンの中身を公開したんです。
そして、その内容が衝撃的でした。
そこにはクーデター計画と取れるものや、不倫日記、不倫写真など多数見つかったんです。



これを知った兵庫県民が、「あれっ」っと思ったのもわかりますよね。
今まで、テレビや新聞で報道されてることと全然違うぞって。
テレビでは、斎藤知事が県民局長を死に追いやったって言ってましたけど、どうも、違うんじゃないかって。
百条委員会で公用パソコンの中身の質問されたらどうしようと思って自殺したんじゃないかって。
まぁ、これ見たら、そう疑われても仕方ないですよね。
もし、このパソコンのデータが、本当に県民局長のものだとしたら。
仕事中に、こんな日記を本当に公用パソコンに書いてたとしたら。
そんな人が書いた告発文、どう考えても県民を思って行動したと思えないですよね。
誰もがそう思いました。
その結果、斎藤知事は圧勝で再選されましたわけです。

これで一件落着と思いきや、そうはなりませんでした。
選挙後、百条委員会の調査結果が公表され、告発文に一定の事実が確認されたと認定されました。
さらに、百条委員会とは別に立ち上げられた第三者委員会においてもパワハラと公益通報が認定されました。
今ここです。

さて、これだけを見ても何がどうなっているのかさっぱりわかりませんよね。
こんな場合、それぞれの言い分を聞いてもあまり意味がありません。
だって、それぞれ、自分の都合のいいように言うわけですから、そのまま信用するわけにはいきません。

じゃぁ、どこを見ればいいんでしょう。
それは、情報テクノロジーがどの方向に作用しているかです。

まず、一連の事件を見て、誰でも思うのは、告発文にはいったい、何が書かれていたかですよね。
だって、すべての始まりはここからですから。

ところが、なぜか、告発文の内容は公開されていないんですよ。
じつは、ここが重要なのです。
内容じゃないですよ。
内容じゃなくて、姿勢です。

つまりね、トップが知っている情報を公開しようとしているのか、隠そうとしているのかです。
トップの持つ情報を公開するのが民主制で、トップの情報を公開しないのが独裁制でしたよね。
独裁制は、現政権を維持するために自分に都合の悪い情報を隠して、都合のいい情報だけを公開します。
公用パソコンの中身を公開しないのも、まさにそれですよね。
こんなものが公開されたら、告発者を信用する人は誰もいません。
そうなったらせっかく追い出した斎藤知事が返り咲いてしまいます。
それを徹底的に阻止しようとしているのは誰の目にも明らかですよね。

少なくとも、反斎藤勢力は、情報を公開しないようにしているのは間違いありません。
そして、情報を公開しない方向に情報テクノロジーを使うのは独裁制です。

今回、新たな情報テクノロジーが生まれました。
それがSNSです。
もちろん、SNSに流れる情報が真実とは限りません。
ただし、それはテレビや新聞も同じです。

勘違いしてはいけないのは、情報テクノロジーは真実を求めて進化しているわけじゃありません。
情報テクノロジーでわかるのは真実かどうかじゃないんですよ。
そうじゃなくて、わかるのは、どっちの方向かです。
つまり、トップのもつ情報を国民に知らせる方向か、隠す方向かです。
そして、国民に知らせる方向が民主制です。
つまり、自己修正メカニズムが働く情報テクノロジーです。
なぜなら、トップと同じ情報を国民が知ることで、選挙で正しい判断ができるからです。
そして、今回、まさにそれが起こったわけです。
斎藤知事の圧倒的な勝利です。
情報テクノロジーを読み解けば、政治家がどこを目指しているかわかるんです。

はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!